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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)918号 判決

控訴人 岡部石油株式会社

右代表者代表取締役 岡部一馬

右訴訟代理人弁護士 松尾利雄

被控訴人 東亜建設株式会社

右代表者代表取締役 内藤実

右訴訟代理人弁護士 入江正信

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金二六五、三〇〇円及びこれに対する昭和三六年一月一五日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原、当審での控訴会社及び被控訴会社各代表者本人尋問の結果によると、控訴会社は石油類の販売を目的とする会社であり、被控訴会社は徳島市に本店を有し土木請負を目的とする会社であることが認められる。

≪証拠省略≫を綜合すると、控訴会社は、代金は取引の月末支払の約束で、昭和三三年八月八日頃から同年八月二三日頃までの間、東亜建設株式会社大阪出張所に石油類を売渡し、一部入金、値引金を控除し、残代金二六五、三四二円が存することが認められる。

そこで東亜建設株式会社大阪出張所と被控訴会社との関係を考えてみると、≪証拠省略≫を綜合すると、被控訴会社は昭和三二年一〇月頃、柴山健吾方に被控訴会社大阪出張所を設置し、被控訴会社員一名を駐在せしめた外、柴山を出張所員とし、同出張所名義で大阪市から毛馬閘門附近の河川浚渫工事を請負い、右工事は約一ヶ月で完了したが、同年一二月一日から同出張所の庶務、会計は被控訴会社本社社員である近藤政に、請負契約の締結その他渉外関係の事項は柴山に担当せしめることを明らかにし、爾後昭和三三年八月末頃まで同出張所名義で大阪方面での土木工事の請負をなし、柴山には工事代金の一割を与えていたことが認められるから、東亜建設株式会社大阪出張所は毛馬閘門附近の河川浚渫工事完了後も、形式、実質とも被控訴会社の出張所であつて、右出張所が買受けた商品代金については、反証のない限り、被控訴会社が支払の責に任ずべきである。

被控訴人は、毛馬閘門附近の河川浚渫工事完了後、被控訴会社は昭和三三年四月一日付でその所有に係る浚渫船(東亜丸)、曳船(金比羅丸)、土運船三隻を柴山に賃貸し、爾来同人は同年八月頃まで賃借船舶を使用して大洋興業所名義で浚渫工事を請負つて来たもので、柴山は被控訴会社の社員でもなく、また請負工事も柴山の責任においてなされたものであるから、その間石油類を控訴会社から購入したとしても、なんら被控訴会社に関係のない事である。さればこそ本件取引による代金の一部支払や、代金支払のための約束手形の振出はすべて柴山個人名義でなされたものであると主張する。しかしながら被控訴人主張の諸点に関する≪証拠省略≫は≪証拠省略≫に照らすと直ちに採用し難く、却つて右証拠を綜合すると乙二号証は昭和三三年一〇月頃被控訴会社の納税対策のため作成されたもので事実に副わないものであること、柴山健吾は被控訴会社大阪出張所が設置される頃まで、大洋興業所の名で浚渫工事等の請負をなしていたが、その後廃業し本件取引当時には大洋興業所として請負工事をなしたことのないこと、控訴会社は当初被控訴会社大阪出張所所員としての柴山から石油類の販売方を申込まれたが、被控訴会社本社の幹部からの申込であれば取引に応ずる旨を告げたところ、被控訴会社は昭和三三年二月末頃被控訴会社常務取締役である竹田義明を大阪に派遣し、同人は柴山と共に控訴会社に赴き、被控訴会社大阪出張所に石油類を販売せられたい旨懇請したので本件取引が開始されるに至つたこと、被控訴会社は柴山に対して毎月定額の俸給あるいは手当を支給することはなかつたが、請負代金を受領したときはその一割を与え、被控訴会社大阪出張所の渉外係として被控訴会社のため請負契約の締結その他に当らしめ、同人を指揮命令していたこと、被控訴会社は本件取引の当初は請負代金中から石油類の代金を支払つていたがその後、石油類の代金を支払わないまま請負代金を本社に持帰るようになつたため、控訴会社から代金の支払を厳促された柴山は窮余次ぎの請負代金受領の時までのつなぎとして自己名義の約束手形を控訴会社に振出交付したことがあることが認められる。

すると被控訴人は被控訴会社大阪出張所が控訴会社から買受けた石油類代金について支払の責があるものといわなければならないから、右代金残額の内二六五、三〇〇円及びこれに対する弁済期後である昭和三六年一月一五日から支払済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の本訴請求は正当である。

被控訴人は、仮りに被控訴会社において前記金員の支払義務があるとしても、本訴債権については民法一七三条一号の適用があり、最終取引日である昭和三三年八月一九日から二年を経過した昭和三五年八月一九日頃をもって時効完成し、消滅したものであると主張し、本訴債権について民法一七三条一号の適用あることは明らかであるけれども、本件取引においては代金は取引の月末支払の約定であり、かつ最終取引は昭和三三年八月二三日頃であること前記認定のとおりであるから、右消滅時効は同年九月一日から進行するものと解すべきである。

控訴人は、被控訴人は昭和三四年四月一日本件債務の承認をなしたので、時効は中断せられ未だ完成していないと主張し、被控訴会社大阪出張所名義のゴム印及び同出張所の印の真正について争がなく、≪証拠省略≫によつて、柴山健吾が作成したものであることが認められる甲四号証によると、同人は控訴会社の要求に基き、昭和三四年四月一日、被控訴会社大阪出張所名義で、本件債務の存在を確認し、早急にこれを支払うようにする旨の確認書を作成し、控訴会社に差入れたことが認められる。

そこで柴山の右行為が被控訴会社の承認となるか否かについて考えると、前記柴山証人の証言によれば、被控訴会社は昭和三三年八月末頃所有船舶を大阪方面から引揚げ、爾後昭和三四年七、八月頃まで大阪方面で浚渫工事をなしていないことが認められるけれども、柴山が被控訴会社大阪出張所の渉外係であり、被控訴会社を代理して請負契約を締結する等の権限を有し、また本件取引は被控訴会社から派遣された被控訴会社常務取締役竹田義明と柴山が控訴会社に赴き取引を懇請した結果開始せられたものであること前記認定のとおりであつて、この事実に被控訴会社は大阪方面引揚後もその出張所印等を柴山の保管に委ねていたこと、当審での控訴会社代表者本人尋問の結果によつて認め得る被控訴会社は控訴会社からの本件残代金支払請求に対し、右債務の存在を否認することなく、大阪出張所に請求せられたい旨返答していた事実を綜合すると、被控訴会社は所有船舶を大阪方面から引揚げた後も、柴山に対し、被控訴会社大阪出張所員として、換言すれば被控訴会社の代理人として本件取引に関し控訴会社と折渉する権限を与えていたものと推認すべきであるから、柴山が前記確認書を控訴会社に差入れることによつてなした本件債務の承認は被控訴会社についてその効力を生ずるものと解すべきである。そして右承認の時から本訴提起の時であること記録上明らかな昭和三六年一月一二日(訴状副本の被控訴人えの送達の日時は同月一四日)までの間に二年を経過していないこと明白であるから、本件債権については未だ時効が完成していないものといわねばならず、被控訴人の時効の抗弁は失当である。

そうだとすると控訴人の本訴請求は正当であつて、これを排斥した原判決は失当であることに帰すから、これを取消し、控訴人の請求を認容することとし、民訴法九六条、八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岩口守夫 判事 長瀬清澄 岡部重信)

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